「東京特許許可局の局長さん」子供の頃誰もが耳にしたことがある早口言葉ですが、この「東京特許許可局」は過去にも存在したことのない部署で、特許を管轄するのは霞が関にある「特許庁」です。先日、初めてこの特許庁に直接、特許を出願してきました。多数の特許出願をされたことのある方でも、弁理士を通さずに直接特許庁に出願することはほとんどないと思うので、この体験談をブログにまとめてみました。
そもそも特許って何?
特許は「発明」を保護する制度で、発明内容を公開する代りに発明者に国が独占的使用権を与えるものです。この「発明」とは「自然法則を利用した技術的思想の創作」のことで、自然法則を使わないものや法則自体も特許にはなりません。特許権は20年の期限があります。
弁理士なしで出願できる?
以前出願したCube-Dの特許は都内の特許事務所にお願いして出願しました。対応して頂いた所長さんが優秀な方で、一度の説明で私のつたない明細書の内容をほぼ完全に理解して願書はすぐに完成し、出願した特許は拒絶が来ることなく登録されました。ただし費用(審査請求含む)は特許庁に納めるものも含めて30万ほどかかったと記憶しています。今回思いついたアイデアはどうしても特許出願したかったので最初は助成金や補助金の情報を集めていました。この時相談したある方から「自分で出願すればよいのでは?」→「弁理士なしで出願できるんですか?」→「YES。特許明細が揃っていれば問題ない」とのやり取りのあと、特許事務所を通さずに出願することにしました。
従来技術の検索は?
全く新しい概念の発明は非常に少なく、大抵は従来技術の改良特許がほとんどです。このため特許明細書には、今までにこんな技術があるのだけれどこんな欠点があった。本願発明はこんな機能を追加したのでこの欠点が解消できる・・のような話の流れになっていて、自分の発明に一番近い特許や文献を記載する必要があります。大きな会社なら独自の特許検索システムを持っていて知財部が検索してくれたり外部に検索を依頼することが多いと思います。一人ではやっぱり無理? いいえ、安心してください。経産省管轄の行政法人であるINPITが特許検索システム(J-PlatPat)を無料で提供してくれています。Web上でキーワードをいくつか入力して検索条件を作って絞り込んで簡単に従来特許文献を探すことができます(それなりにコツと時間が必要ですが)。
図面を作成するツールは?
図面は特許内容を説明するための補助ツールであって必須ではないのですが、図面のない特許を今まで見たことはありません。作図ツールはパワポやイラレでもよいですし、私はVISIOを愛用しています。また、今回出願した特許では斜視図を載せたかったので、SchetchUpというフリーの3DCADを利用しました。面スタイル(=隠線)、背景は白、外形線は表示OFFでエッジのみとして画面上に適当な大きさに表示してエクスポート→2Dフォーマットで出力。さらにVISIO上に取り込んで引き出し線等を追加しました。多少手間はかかりますが2DCADで斜視図を作るよりも時間短縮になったはずです。
特許出願用の書類のひな型は?
出願時には、特許願、特許請求の範囲、明細書、図面、要約書の5点セットを提出します。余白や文字フォントなど指定があるのですが、先ほどのINPITのHPからひな型をダウンロードすることができます。出願書類以外に、審査官から拒絶を受けた場合の意見書や補正書などのひな型もここからダウンロード可能です。
文書作成時のTIPS
特許明細書には、段落ごとに段落番号を【0045】のように記載することになっています。これを手入力で行うと、文章を手直ししたり追加したりする過程で番号がずれてしまい修正が面倒です。WORDにはフィールドという機能があって、連番を自動で生成してくれるのでこれを利用しましょう。CRTL+F9で現れた{}内に下記を記載します。
{ SEQ 段落 \#"【0000】" \*DBCHAR }
段落の頭にこれをコピーしておきます。最後にCTRL+Aで全文章を選択してF9を押して、連番の更新を行います。フィールドは更新しないと正しい連番にならないので注意が必要です。
その他、明細書、図面にはそれぞれ1から始まるページ番号を記載します。単純にヘッダにページ番号を追加するだけだとそれぞれの頭の番号が1にならないのでセクションで分割する必要があります。WORDのページレイアウト→区切り→セクション区切り で設定します。
でもやっぱり請求項は自信がない
「特許請求の範囲」に記載する請求項は、特許権として認めてほしい範囲を記載するいわば法律文書のようなもので、特に重要なものです。最初にこの請求項を見た時には、本当に日本語かと思ったものですが、かなり独特の記載を行います。この中であまり権利範囲を狭くしてしまうと使えない特許になってしまうし、かといって広くしすぎると審査官から拒絶査定を受ける可能性があります。ここは専門家の意見をもらうのが得策だと思います。
今回の特許出願では奥の手を使いました。東京都中小企業振興公社が運営している機関である東京都知的財産総合センター(秋葉原)では弁理士の先生を交えた特許相談を無料で行っています。1回あたり1時間で予約制ですが、特に回数に制限はなさそうでした。今回は2回使わせていただき請求項だけではなく従来技術の記載と図面に関するアドバイスをいただきました。また、特許庁の2階に相談窓口がありこちらも出願最終原稿を見ていただきました。いずれにしても、誰かに一度見てもらうことをお勧めします。
いざ特許庁へ
やっと完成した特許を紙にプリントし、特許願に自社の代表印を押して出願書類が完成です。特許庁は電子出願を推奨していますが、いくつかハードルがあり、電子化の手数料を払っても紙で出願するほうがよいと判断しました。郵送でもよかったのですが、デジタルキューブとして初出願であることと40分程度で特許庁にたどり着けるので直接行ってみました。
銀座線の虎ノ門駅を降りて5番出口を出ると、外堀通りに出ます。ここを道沿いに西に歩いていくと数分ほどで「特許庁」の大きな石の表札が現れます。
正面に飛び出したような独特なエントランスの建物が特許庁で、すぐにわかります。中に入って、受付票に名前や住所等を記入すると警備員に手荷物を検査されました。そして身分証明書を提示するとカードを渡され、これを使ってセキュリティーゲートを通過します。思いのほか厳重なセキュリティーでした。
ゲートを抜けて入ってから、入ってきた方向に写真を撮りました(許可はとってあります)。無駄に天井が高い気がしますが、有名な建築家の設計なのかもしれません。ほとんど人はいませんでした。まず14,000円分の特許印紙をこの階にある売店で購入しました。特許印紙は収入印紙のようなものなので、近くの郵便局で購入しようと思いましたが小さな郵便局にはおいてないとのことでした。
2階に相談コーナーがあると聞いて、安心のため最後のチェックをしてもらうことにしました。待ち時間なしで丁寧な対応でした。ここでページ抜けとWORD文書に埋め込んだフィールドが一部文字化けしているところを指摘されました。もう一部印刷したものを持参していたのでそちらと交換して事なきを得ました。1部目を印刷した時にずいぶん時間がかかると思っていましたがこんなことも起こるんですね。
次に地下1階に移動して特許印紙を貼った特許願をコンビニでコピー(受領印用)。1階でコピーを取ると30円。相談コーナーで教えてもらいました。特許印紙には割り印を押してはいけません。そして1階に戻って窓口に書類を提出。先にコピーをとったものに受領印を押してもらい、今後の流れを説明してもらって終了。30分ほどの滞在で初出願は完了しました。